※メンバー敬称略させていただいております。
「なんかね、俺たちもよくわかってないんだよなぁ。今日はもう打ち上げで飲みまくるから、その二日酔い、三日酔いが醒めたら、4人で集まってメシでも食べながら今回の『これ』がなんだったのか話すつもりだよ」
そう確かに彼は声高らかに言った。
この言葉で、また我々はこの4人の姿を心待ちにできると、信じられると思った。
奇跡が起きて、参戦できたこのマリンスタジアムでの伝説のライブをここに記しておきたい。
開場開始とともにアリーナが埋まっていく姿は圧巻だった。
走り出すキッズ。多くは30代以上のもう元キッズなのかもしれない。
10年間彼らを待った人、この10年で彼らを知った人。
約3万5000人。そしておそらく会場に入れず外にいる数千人を合わせれば4万人。
自分ふくめ本当に、本当に多くの人が彼らを待っていたんだなと痛感した。
ONE OK ROCK
現在では海外でも多くの公演を行っている、おそらく現代のライブキッズ達にとっては1番大きなロックバンド。そんな彼らが今回のELLEGARDENのツアーではオープニングアクトを務めている。
ボーカルTakaのおかげで復活できた、と細美武士にいわせたバンド。様々な反響のあった中で彼らは堂々たるライブを繰り広げた。
普段はどちらかといえば、自信満々のMCをするTakaがこのときばかりは謙虚だったように感じた。
「ステージに立ったら先輩後輩関係ないと思ってるんだけど、今日だけは」とELLEGARDENへのリスペクトを常にみせていた。
「自分達にとってエルレはレジェンドで。復活してもチケット絶対とれないからわがままいってオープニングアクトでだしてもらいました」などと冗談を入れながらも
「まだまだELLEGARDENが見たいです!」とステージ脇へ向かって叫ぶなど、ああ、彼らも自分達と同じように彼らが本当に大好きでずっと待っていたんだなと感じた。
We AreではTakaがステージから飛び降り、全力疾走で向かい側スタンド席までいくというパフォーマンスをみせ、そのあとのラスト「完全感覚Dreamer」のイントロでまた全力疾走し歌いだしまでにステージへ戻ってくるというすさまじさ、そして圧倒的歌唱力を見せつけた。
ELLEGARDEN
転換の間はひどい動悸と吐き気だった。
もうすぐ彼らがこのステージに現れ、10年ぶりに演奏する。
フロア全体が息を止めているかのように感じた。一向に減らないフロアの人数。
開場時には明るかったのに周囲はすっかり夜になり、空には星が輝いていた。
永遠に思えたその転換が終わり、一瞬真っ暗になったフロア。
10年前と全く同じ、あのSE。休止前最後のアルバムとなったFire Crackerの「Opening」。
そしてELLEGARDENのいつものあのフラッグ。
腹の底からの雄叫びのような「oiコール」が響き渡る。
筆者はすでに、涙が次から次へと零れ落ち、口を手で覆ってしまっていた。
ああ、彼らは約束した通りに、
Supernovaで始まるライブをしに帰ってきた。
怒涛のフロアだった。
おそらくみんな泣きながらダイブやモッシュを繰り広げている。
遅いんだよ、何年待ったと思ってるんだ。
文句の1つもいってやりたい。
そう思うくらい長い時間待たされたはずだったのに。
10年ぶりに現れた彼らは、どこをどう切り取ってもELLEGARDENだった。
衰えることなどなく。
ボーカル細美にいたってはあの頃からひとつも老けてさえいない。
VANS、短パン、Tシャツ。45歳とは思えない若さ、そしてパワーアップした歌唱力。
ギター生形やベース高田、ドラム高橋ももちろんパワーアップした演奏力。
今、この2018年だからこそ見れるELLEGARDENが確かにここにある。
この10年いろいろなライブをみてきた。
どのライブだって、最高でエモーショナルだったけれどこんなにも心が震え、腹の底から激情が沸き上がるライブがあっただろうか。
自分のライブ歴を塗り替える、まさに伝説のライブだ。
瞬く間に流れていった超新星の次には、9月9日に毎年毎年ファンは今年も快晴だなあと思う「No.13」!!
13番地で待ち続けたファンたちへ「ただいま」と言ってくれたような気がした。
涙はもうずっと止まらなかった。
3曲目は歌えんのかお前ら?というような細美の笑顔と共に「ぺパロニクアットロ!!!」4万人分の叫びが会場に響きわたった。
「こんばんは!ELLEGARDENです!!!」
ここでまた涙が大きく溢れた。この言葉をずっとずっと待っていた。
この言葉をもう一度聞ける日を。
おかえり、と叫ぶ前に照れ隠しのようにはにかんだ細美に「ただいま」と言われてしまった。おかえり、と声にならない声で叫んだ。
「お前らちょっと静かにして!子ども以外は静かに!!」そうフロアを鎮めて
「外にいる奴らーーーーー!!聞こえてっか!ケガすんなよ!!!」
と中に入れなかったファンへと彼は声をかけた。
彼がフロントマンとして愛されているのはこういうところだよなあ、かなわないよなあと思わされた。
「Fire Cracker」「Space Sonic」「高架線」怒涛の3曲がフロアを沸かせに沸かせた。
「思うよりあなたはずっと強いからね」そう彼は笑いながら手をフロアに向けた。
救われた、そう10年前にも思った。
このときもこの歌に今までの悲しみや苦しさが救われたような気がした。
待っていて、本当によかった。
「俺らはこのでかい野球場でライブする程のロックスターになりたかったわけじゃない。だから今回は最初で最後のスタジアム。」
そういったニュアンスの言葉を細美は投げた。彼らはいつだってそうだ。「俺たちってそんなだいそれた存在じゃなくて、お前らとなんら変わらない、まるでダメな奴だよ」そういったスタンスでいる。
だから安心できて、弱っているときに頼りにできるバンドだ。
でも彼らの自己評価の数万倍も、彼らはずっとロックスターなのだ。
「ワンオクに誘ってもらって、ライブは2年前に決まってたの。その日からずっと考えたけど、今迄この日に見合うだけのことしてきたかなーって…で、今日は、今日だけは幸せになっていい?ロックスターになっていい?」「なあ今日だけは、いっちょ、ロックスターでやってみねえか?」
そう観客に確認するように、メンバーに提案するように細美は言った。
当たり前だよ。やっていいに決まってる。幸せになっていいに決まってる。
今日くらいは、その低い自己評価を捨てて自信満々のライブをやってくれ。
「んじゃ、懐かしい曲やります!」と演奏されたのは「Missing」
歌詞にある「ここ」はライブハウスのことだ、といつかのMCで言っていた。
苦しいとき。つらいとき。どうしようもないとき。仲間も味方も誰もいないとき。
「ロックを頼れ」そう彼は言っていた。
ずっとこのELLEGARDENのフロアに支えられ、救われてきた人が何人いることだろう。
自分もこの曲に何度支えてもらっただろう。
そう思うと胸が熱くなった。
そのあとの「スターフィッシュ」こんな星の夜に、会いたかったのはずっと彼らだ。
私の初めてみたELLEGARDENのライブの1曲目がこの曲だった。
「おとぎ話の続きをみたくて」と最高の笑顔で歌い、最高の演奏をした彼らに心奪われたあの日からもう10数年たったのか。
恋人への歌詞ではなく、最高の友人、仲間に会いたい気持ちの歌詞だといつか言っていた。
この日に相応しい曲。夜空の星が輝いている下でのこの曲は最高だった。
よく細美は夏が終わるのが嫌だ。心の真ん中にいつもぽっかり穴があいていてなにかが足りないと言っていたように思う。ああ、自分も同じだなと思っていたからこの「The Autumn Song」がとても心に響く。
でも今日は、心の真ん中の穴が埋まったよ。細美もそうであってほしいと願った。
「たぶん半分くらいは初めましての人だと思うんだよな。親が好きで車の中でよく聴いてました、ライブに行ってみたいなって思ってたら活動休止しちゃいました、っていう。そういうやつら!これが俺たちELLEGARDENです。以後お見知り置きを!」
「そして相変わらずきれいごともいえず、10年たっても、周りから浮き狂ってるバカども。そんなオールドファンへ捧げます」
そう言って演奏された「Middle of Nowhere」は10年間待っていたファン達への最高のプレゼントだと思った。
きみはいかれてなんかいない ただ複雑なだけだ
そう歌ってくれたことに、何度も何度も救われた。
本来ライブハウスとは、周りになじめないような、よくわからないこの世に蔓延している「普通」というものに準ずることができないような人間たち。
細美にいわせれば「俺たちダメ人間」の溜まり場であり、駆け込み寺だと思っている。
中指を心の中で立てているような人間達が、人を殴らないかわりにロックに拳をあげる。
00世代、エアジャム世代と呼ばれるロックキッズ達はそういろんなバンドに教えられ、生きてきたのではないか?
「世界は回り続ける 僕を残して」Lonesomeの歌詞がそう歌っているように、世界からは取り残された私達には、ロックがあるのだ。
「正直に生きることが正しいと思って生きてきたから、10年かかったよ。けど、この世は本当は正直者がバカを見るような世の中なんじゃないかって何度も思うことがあった。ぐっと歯を食いしばって我慢することもふえたから、しわもふえた」
この長い間、自分達の人生に色々あったのと同じように彼らにももちろん色々なことがあっただろう。それを乗り越えてこの日にたどり着けたことを本当に心から嬉しく思う。
普段はあまり喋らないリーダー生形は「10年待っててくれてありがとう。俺たちは本当に幸せなバンドです」と言ってくれた。
そんなMCのあとでの「金星」はとても印象的だった。あの頃より増した歌唱力と演奏力での金星の大サビは鳥肌が立つほどに心が震えた。
「最後に笑うのは正直な奴だけだ」
この歌詞を書いた細美は、周囲から「ああ、夢みてるんだね」と笑われたそうだ。
それでも自分の知っている限りこの男はずっとこの歌詞のように正直に生きてきた唯一無二の人間だと思っている。
周囲に嫌われようと、疎まれようと、笑われようと、正直に、自分の信念をよくも悪くも曲げずに生きてきたある意味不器用なこの人だからこそ、この歌詞が輝く。
「お前らから貰ったものどれだけ返せてるか分かんねぇけど、お前ら臆病者の背中をそーっと押せるような、お前らみたいな馬鹿たちにも一緒にいてくれる仲間がいるんだぞって気づかせてやれるような存在でいるのがオレらの仕事。でも10年間頑張ってきたので今日は、全部ください。んで今度おまえらに俺たちが返すから」
そう言って演奏されたのは「サンタクロース」
この季節にまさかこの曲が聴けるとは思わなかった。
「全部あげるよ」フロアのファン達はきっとそう思っただろう。
1000個のプレゼントより多くで大きいものをELLEGARDENからずっともらってきた昔。
「お前らが俺たちを必要としてるんじゃない、俺たちにはお前らが必要なんだ!」そう休止ライブで叫んでくれた彼らに自分達はどれだけあげられていたのか。
いつだって背中を押してくれた彼らに今日だけは、いやいつだって全部あげてしまいたい。
最後のメンバーからの一言で高橋は
「みんなには休止って約束したけど、俺は心のどこかで、もうELLEGARDENのライブをやることは一生ないんじゃないか、って思ってた。」
そういったようにこんな日がくることをどこか諦めていたファンも少なからずいただろう。
「ELLEGARDENは戻ってこない」そうしたり顔で言われて、何度か唇を噛んだ。
それでも4人は帰ってきたのだ。
これは何度も見た夢ではなくて紛れもない現実。その事実だけでもう胸はいっぱいだった。
「カメラいっぱい入ってるけど、DVDとかならないからね。(フロアから「えーーー」と叫ぶ)だってさあ、この3本のワンオクとのツアーはさ、俺たちにはすげえ楽しい旅だった。けど、お前らにはお前らが主人公のストーリーがこの日まで10年あって。その本当の最後の最後にぷっとこの日がくっついてるだけだからね。そんなお前らそれぞれの10年を、俺たちの旅の記憶で上書きするわけにはいかないからさ。お前らの10年間に、なにがあったか今度きかせてくれよ」
「今日みたいな最高の日があっても、またこの1日は上書きされていくよ。お前らの頂点はここじゃない。人間は忘れる生き物だからだしね。」
なんてさみしいことを言うんだ、と思ったら一拍置いて
「…でも俺にとっては今日が、一生で一番幸せです。ありがとうございました!!!」
引っ込んだはずの涙がまた溢れだす。Red Hotで会場の熱気は再び最高潮へ。
HIATUSの彼も、MONOEYESの彼も見るたび「どうか幸せでいてくれ」と願っていた。
いつも幸せだ、そういってくれていた。
けれど、自分はどこかでELLEGARDENの彼が幸せであることをずっと祈ってきた。
その願いが今日叶った。
「ラスト一曲!!」と叫んで演奏されたのは「虹」
旧友、ホリエアツシ(ストレイテナー)、ゴッチ(ASIAN-KUNG-FU-GENERATION)の3人で一緒に虹をみたことがきっかけでできたといわれている曲。
「迷わずにすむ道もあった どこにでもいける自由を失うほうがもっと怖かった」
そう思ってこの10年進んできた。
「僕らはまた 今日を記憶に変えていける」
あの休止ライブがやっと過去になった今日。
この日もまた記憶へと変わっていくのだろう。
だけど、今日は自分にとっても間違いなく、一生で数回しかないであろうてっぺんの幸福を味わった日だった。
そのあとすぐにアンコールがはじまり、
「今日8月15日は73回目の終戦記念日です。ガキの頃とかは全くそんなの気にしなかったけど、最近やっぱり俺たちロックミュージシャンは愛と平和を歌うべきなんだと思って。今日だけは、今だけは、お前らの隣にいる奴らが1人にならないように、寂しくならないように、この3分間だでいいからさ、歌ってくれよ!」と話してMake a Wishへ。
あなたの歩く道すがら、だれかが手を握ってくれますように。
そう祈りを込めて歌った。
アンコール2曲目の「月」は、昔にやっていたように全員を座らせてからの大サビでのジャンプを促した。後で知ったことだが会場の外にいた数千人も同じようにしていたらしい。
メンバーもフロアも最高に楽しかった瞬間だったと思う。
お決まりのダブルアンコール。愛されたがりを自称する彼らは2回は出てきてくれると信じている。
本当の最後の最後は、鉄板の上の暴動。そう、「BBQ Riot Song」
最後だ、と察したフロアは本当に鉄板の上の暴動のようにダイバーが続出。短い曲だ。終わる、ああ、曲がこれで終わる。
筆者はスタンド席だったが勢いでスタンドからアリーナへ飛んでしまおうか。そう思えるくらい揺さぶられた数分だった。
終わってしまった、そう思った瞬間。
会場外から花火が数十発打ち上がった。
ELLEGARDENからファンへのプレゼント。今日という最高の特別な日の最後に。
おかえりなさい、ELLEGARDEN。
休止ライブの最後はInsaneだった。
「ここにいてほしい、単純にそう思うんだ。こんな日には」
あの悲しみとは違った最後の暴動と花火。
さよならじゃないと思わせてくれたと思っていいのだろうか。
これは、また会える日まで生きるしかないよなあ。